グリッドコンピューティングとは何か?


前回のエントリであつかった「ユビキタス」というキーワードが消えていくのと同時に、
「グリッドコンピューティング」という言葉もまた、目にしなくなってしまいました。
とういことで、今回はこの「グリッドコンピューティング」をラップアップしてみます。


「グリッド」の由来となっているのは、格子上の「電力網」のこと。
発電所から各家庭のコンセントまで「あまねく」電力網が張り巡らされることで、
私たちが容易に必要なだけ電気を利用できるわけですが、
これと同じように、コンピュータを容易に使えるようにしよう、
つまり、送電インフラとおなじように、コンピュータをつなげよう、
という概念がグリッドコンピューティングというキーワードを生み出しました。


当時のグリッドコンピューティングは、享受する対象として、
「処理能力」を扱う文脈が中心だったことは重要な点であるように思います。
スーパーコンピュータを買わなくても、低コストのマシンをそこにつなぐことで、高い処理能力を得る。
それは、たとえば、パソコン同士をつなげてゲノム解析をする、というような使われ方が中心で、
分散・並列コンピューティングなどとも呼ばれました。


ちなみに、余り関係ありませんが、電力網が提供するのは電気ですから、
これらを「並列」につなげても電圧が上がるわけではないので、
処理能力を向上させるための接続は、「直列」コンピューティングと呼ぶべきだとずっと思っていたのですが、
ま、このあたりはどうでもよろし。
あと、ときどき、このグリッドとPLCアダプタをごっちゃにしてしまう人がいますが、
これも、言及するものが異なるので、分けて考えたほうが良いかと。


グリッドコンピューティングがもてはやされた背景には、
ダンピング課税によるスーパーコンピュータの開発力低下や、
Linuxの登場を発端とするホストコンピュータのダウンサイジングの波などに対抗しようという、
ハードウェアベンダーの意向が見え隠れした、というかはっきり大きく影響していたわけですが、
当時は高価だったサーバー用ハードウェアも、いまでは比べ物にならないほど安価になってしまったため、
グリッドコンピューティングそのものに「うまみ」が無くなった結果、
グリッドとは、具体的には「クラスタリング」のことを指す、といっても間違いではない状況になっています。


実際、システム構築において、ある程度の規模以上になると、
ハードウェアにおけるクラスタリングは「当たり前」の技術であり、
そこに「グリッドコンピューティングを実現しよう」という意識はありません。
そのような経緯から、またもお役御免となったこのキーワードは、
IT業界から退場していったわけです。


しかし、このグリッドコンピューティングは、その「処理能力網」をベースとした新しい概念として、
現在、大流行の「クラウドコンピューティング」を生み出すわけですが、
そのあたりはまた次回。